2008年11月3日

企業の成長とステークホルダー(忘れ去られた従業員)

企業を成長させていく上で、経営層は本質的に株主に対して、株主価値や企業利益の最大化をコミットした上で経営を行っていますが、ここ最近の「企業の社会的責任」を考慮した上で、企業は株主だけではなく、株主を含むステークホルダー全体に考慮した経営を行う方向に舵を切っています。

あまり景気の良くないこのご時世において、企業を成長させながら、同時に各ステークホルダーを満足させるにはどうすれば良いのでしょうか。

そもそも、ステークホルダーには、株主などの投資家の他にも、従業員、顧客、取引先、競合、マスコミ、社会全般と、範囲を広げれば際限なく広がってしまうので、ここで便宜上「企業の成長に最も影響を受ける」という条件でステークホルダーを定義し、株主(投資家)、従業員、顧客がステークホルダーだとしたときに、経営者はどのようなバランスで各ステークホルダーに向き合えば良いのか考えてみます。


企業が成長し、利益が増え、株価(時価総額)が向上すると、まず最初にわかりやすい形で利益を享受できるのは株主です。
ただし、株主価値を最大化が従業員の犠牲の上で成り立っているような経営では、ステークホルダー全体に配慮した経営になっていないということになります(詳細は後述)。

また、企業の成長には顧客満足度を向上させることも欠かせません。お客さまあっての商売であるということは、今も昔も不変の定理です。
顧客もまたまぎれもなく企業のステークホルダーですから、顧客満足度を向上させることはステークホルダーに向き合った企業経営のあり様と言えます。
しかしながら、ここでも企業は顧客満足度だけに執着し、従業員の満足度にはそれほど目を向けていない現状があるように思えます。

端的に表現するならば、「顧客の意見を聞き、望むものをタイムリーに市場に投入することで、常に売上を伸ばし、且つ利益率は落とさない」という経営方針が続くことになり、そのためには経営の効率化、無駄な費用の削減、従業員一人当たりの生産性の向上等を行う必要があります。
それぞれはすべて企業としての当たり前の考え方なのですが、効率化し、削減し、同時に生産性を上げることが、従業員の犠牲の上に成り立っていては意味がないのです。というより、長続きしないのです。

最初のうちこそ、従業員の士気は高く、生産性を上げることができても、上がった利益の対価となる十分な収入、あるいは収入以外の満足度向上要因が与えられなければ、それはストレスとなり、ストレスが蓄積すれば疲弊し、モチベーションも下がり、結果として生産性は落ちていきます。生産性が落ちてしまうので、従業員のスキルを上げようと思うのですが、無駄と思っていた教育関連費用は削減してしまったので、十分な教育や研修を受けさせることができない。現場で育てようと思ってもOJTにも限界があります。ならば、新たに従業員の頭数を増やそうとするのですが、利益率を落としてしまうので販管費(人件費)は増やせない...という悪循環にはまってしまう。
結果、長い目で見ると、企業の成長は滞り、ステークホルダー全体の満足度が下がってしまうことになります。

では、株主や顧客の満足度を上げるのと同時に、従業員の満足度を上げる方策があるのでしょうか。
上記のシミュレーションでは従業員の生産性を下げる要素として3つのキーワードを登場させました。ひとつは「ストレス」、つぎに「モチベーション」、最後に「スキル」です。これらのキーワードをもとに考察を続けます。


従業員の感じている「ストレス」は心身両面のものであり、仕事から受けるもの、家庭環境、将来への不安等様々です。これらのストレスを単一の方法で解決することは難しく、総合的なストレス軽減対策を講じなければいけません。

ストレスを軽減させる方法やメソッドは様々なところで語られていますが、それを奨励したり個人に任せたりするレベルを超えて、企業内に専門の部署をおくことが重要です。自分の職場にきちんとした対応部署がある、会社は自分たちの心の健康をきちんと考えてくれているんだという思いを従業員に持ってもらうこと自体が従業員の安心感につながります。
従業員が専門部署に気軽に相談できる環境を整え、従業員のメンタルヘルスを向上させることでストレスが減り、勤怠も向上(欠勤や遅刻の減少)し、仕事の効率も上がっていくことが予測できます。


次に、どうやって従業員の「モチベーション」を高めていくかということについては、わかりやすい報酬面から紐解いていきます。
従業員は前述したようにステークホルダーの一員ですが、企業が成長するに従って、株主価値や顧客満足度は向上していても、自分たちには十分な見返りが与えられていないという不満を抱えています。もちろん従業員の要求すべてに応えることはできませんが、自分がどのようなことを期待され、その期待に具体的にどこまで応えることができたのか、そしてその対価としてどういうロジックで現在の報酬を受けているのかが納得できていることが重要です。

企業が利益を上げているのに、自分(従業員)たちの収入だけは上がらないことを従業員に説明する際に、「企業が成長を続けていき、利益を上げ続けることで、投資家やお客様に喜んでもらわなければいけない。彼らにそっぽを向かれたら会社自体が存続できなくなる。だから効率化し、無駄を省き、生産性を上げるのだ。」と説明しても従業員には伝わりません。逆に従業員は「オレらがそっぽ向いたらどうするつもりなんだ?」と思うことでしょう。

こういった誤解を避けるためにも、企業としての成長戦略をきちんと従業員にも説明し、そのために個々人(の持つスキル)に対してどのようなことを期待しているのかを経営側と従業員側で「握る(コミットする)」ことが大切です。そして握ったことに対して結果を出したものには、きちんとした報酬を与えることが重要になってきます。
企業の成長のために期待されている事柄を理解し、そのことについて経営層と握った約束を達成した場合に、対価としてきちんとした報酬を受けられれば、従業員は誇らしさとともに次の成長に向かうモチベーションを高めることができます。


最後に従業員の「スキル」を高めるために何をすべきか、前述したように職場でのOJTには限界があり、新しい考え方や最新の技術を取り入れていくのに時間がかかってしまうことが多くなります。長い目で見て、業務の効率化や無駄の排除を断行するためにも、従業員のスキルを高めるための教育関連費用はケチってはいけない領域なのです。

よく、「うちは中途採用の即戦力しか採らないから」という企業もありますが、中途採用だからこそ、他社のために特化されている従業員の技能を、いち早く自社の戦力となるように教育(方向付け)していかなければいけません。粒は揃っているのにチームとなると力が発揮できないのは、チームメンバーのスキルセットが凸凹になってしまっているためです。
即戦力として採用した従業員に自社の事業戦略を理解させ、前線で戦うチームの凸凹を整え、どのような業務で彼らのスキルを発揮してもらいたいのかを明示することでミッションの達成までの時間を短縮させます。この「凸凹を整える」ときにきちんとした教育が必要になってくるのです。


企業が中長期的な成長戦略を描き、それを実現させようとする時、多くの役割を担うのは従業員です。
経営者はステークホルダー全体に考慮した経営を行うのであれば、株主、顧客と同様に従業員の働く環境にも最大限の考慮をすべきなのではないでしょうか。

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